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▲精華町下狛谷の「瓜生田遺跡」の碑

 
 相楽郡を東流する木津川が、北に90度流れを変える辺り、右岸に山城町上狛、左岸に精華町祝園・下狛の地が開けます。

異国情緒(じょうちょ)漂(ただよ)う  上狛・下狛
 上狛・下狛の地は、古代、我が国に先進技術をもたらした渡来人達が住んだ処でした。
 古典文学を繙(ひもと)くと、日本最古の説話集『日本霊異記(にほんりょういき)』に、上狛の高麗寺(こまでら)を舞台とした話が載っています。また古代歌謡を集めた『催馬楽(さいばら)』には、瓜を作っていた渡来人から求婚された日本女性の、嬉(うれ)しくも恥ずかしい気持ちを詠んだ歌が記されています。(「山城」)
 王朝貴族達は、宴席などで謡った『催馬楽』によって狛のイメージを作り上げたのでしょう。狛の地は、やがて歌枕となってゆきます。
・瓜植えし狛野(こまの)の里の御園生(みそのふ)の
 繁(しげ)くなりゆく夏にもあるかな
 『百人一首』にも載る歌人、曾禰好忠(そねのよしただ)の作。「園生」は植物を栽培する園のことです。
・大和ともからともみえず山城の
 狛野に咲けるなでしこの花
 『夫木抄』所収(しょしゅう)。「から」は「韓(から)」。狛の風景に、異国の風情を感じ、ここは日本なのか、それとも朝鮮なのかと歌っています。
・音に聞く狛の渡(わたり)の瓜作り
 となりかくなりなる心哉(かな)
 『後撰(ごせん)和歌集』の歌ですが、瓜作りの渡来人を、様々な形に成る瓜のように、心の移り易い好色者だと詠んだ面白い歌です。
 上狛下狛は、古歌の世界では、エキゾチックな雰囲気漂う空間であったのが伺(うかが)えます。

紅葉の名所祝園
 祝園は、古く『古事記』に地名起源説話が載りますが、古歌の世界では、「柞森(ははそのもり)」として、紅葉の名所で知られました。
・時わかぬ浪さへいろにいづみ河
 ははそのもりに嵐ふくらし
 藤原定家の歌。「季節の無いはずの浪までも色づいているよ、泉川は。祝園の森に嵐が吹いているらしい」。祝園の森に嵐が吹き、泉川が散った紅葉で色づいていると詠んだ歌です。「いづみ」は「出づ」と「泉」の掛詞(かけことば)。
・いかなれば同じ時雨に紅葉する
 ははそのもりの薄く濃からん
 『後拾遺(ごしゅうい)和歌集』所収。時雨は木の葉を色づかせるとも考えられていました。「同じ時雨の下にあるのに、どうして祝園の森の紅葉に、濃い薄いの違いがあるのだろうか」。
・舟とめぬ人はあらじな泉川
 柞の森に紅葉しぬれば
 藤原経家の歌。「誰も泉川に舟を泊めないではいられないだろう、祝園の森に紅葉が美しく色づくと」。
 「柞(ははそ)」はそもそも名詞として、ナラ類・クヌギなどの総称。いづれも美しく紅葉するので、言葉の連想から、祝園は紅葉の歌枕となったのでしょう。しかし『更級(さらしな)日記』に「山城の国ははその森などに、紅葉いとをかしきほどなり」と記されています。作者が初瀬詣(はつせもう)でに行く道中の記述で、祝園は、実景としても紅葉の美しい処であったことが判ります。

近現代の作品から
 近・現在の文学作品では、狛・祝園は、古歌のイメージを踏まえつつも、新たな側面からも描かれるようになります。
 近代の作品では、田山花袋(たやまかたい)の『流矢(ながれや)』がまずあげられます。『保元(ほうげん)物語』を下敷きにした作で、流れ矢に当たった左大臣頼長が、舟で木津川を遡(さかのぼ)り、祝園に着いて、南都の父に逢うのを請(こ)う場面が、詳(くわ)しく描かれています。
 現代の作品では、山城国一揆を描いた小説、多くの読者を持つ東義久氏『小説山城国一揆』や、地上亮氏『日本水滸伝』・後藤竜二氏『乱世山城国伝』などに、狛・祝園辺りが、国一揆の一舞台として登場します。
 紀行文の名手北尾鐐之助(りょうのすけ)『近畿景観』には、祝園村から神童寺(じんどうじ)へと向かう描写が、美しい文章で記されています。広々とした一幅の春の絵巻のような木津川辺りの風景、平城(ひらき)の渡(わたし)から、14・5歳の船頭の棹(さお)さす舟に乗り、作者は、こんな景色の良い処で、一生舟を漕(こ)いで暮らしてみたいとの思いに耽(ふけ)ります。昭和初年頃の、長閑(のどか)な狛・祝園辺りの情景です。




■著者プロフィール■
小西 亘(こにし わたる)
 
1958年、南山城村に生まれる。82年より京都府立高校に勤務。現在府立南陽高校国語科教諭。『注釈青谷絶賞』『「月瀬記勝」梅蹊遊記訳注』執筆。

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