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▲高神社(井手町)
三六星は次々に頭角を現わし、いよいよ点が線に繋がろうとしていた。
新たなる思想と教育の原点は神部率いる草内大学が受け持つ。
「人は皆、自由に生きる権利を有しておる。その為、われわれが満足して生きることのできる新たなる国をわれわれの力で造りたいものよ」神部の口癖である。
人と人をつなぐ人々がいる。奈良街道を行き来するのが仕事の馬借や船頭たちである。だが、それに制約をかける幕府公認の関所が一方である。関所は単に交通を妨げるだけではない。支配者が税を搾取するための道具にも変わる。ことのほか弱者に対しては検閲が厳しい。けれど、坂本の馬借や車借達の反乱には無抵抗であった。弱いものには強く、強いものには弱い、それが権勢に携わるものの常なのだろう。
今回、山城は少々異なっていた。豊富な人材と、憤りとがマッチする可能性が大いにあること。ジンギスハンが裏部隊を活用し、狼煙の情報網でユーラシア大陸を支配したように、小規模ではあるが彼らにもまた、情報の起点となる井出城に巣くう忍たちがいた。
それぞれの人生を自己流で貫き生き抜いてきた剣豪も、信念揺るがず農民のまとめ役にも相談役にも徹してきた山城の長。経済を司る商人達も権力者ではなく彼らを後押しする。
しかし、それらが一致団結し、まとまり、新たな新天地へと飛躍するのは許し難い。
特に、山城からのあがりを持っていく旧都奈良の寺院勢力と、都の権力者日野富子らは普段は反目しあっているが、民衆の結束には共通の「害」を感じ、潰すに双方躍起である。
文明一九(1487)年。
多賀の荘で思わぬ事件が勃発した。殺人事件である。
時の代官は適当にこれをあしらいたかった。だから、犯人として、「宇治田原の岡田一信」という男を捕縛し、落ち着かせたつもりであった。
(とりあえず疑わしきは第一発見者じゃ。そういたそう。暫くすれば、都に凱旋できる身。早急にこの件を決着することが肝要。次の赴任先は楽しみじゃ)
だが、多賀の荘の長、栗田文左衛門は丁寧に事を調べ直す。
(宇治田原の名主、岡田のせがれが犯人? お人好しを絵に描いた親子じゃ。そんなことがあろうはずはない)
と、最初は直感だけの判断であった。
だが、ことは村人の生命に拘わる重大事、真実ならば田原郷と分裂しても仕方ない。が、異なれば、代官の許すべからざる手抜き。
精査に精査を重ね、事実を丁寧に積み上げた結果、真相がやがてはっきりした。都からの流れ者、油売りの男が犯人だったのである。
この油売り、老婆をだましにかけ法外な値段で売りつけていた。その現場を、殺された男が見ていたからである。彼は義憤に駆られ都からやって来た油売りを揶揄した。すると、短気な油屋は持っていた縄切り包丁で反撃し、老婆を傷つけ、殺害したのだろうという考えに達した。最初は恐怖で口のきけなかった老婆も、「油売り・・」と蛙のような声を絞って訴えた。
「まだ遠くに行ってはおるまい。手分けし油売りを捉え、真相を吟味しろ」
堰を切ったように探索団は四方八方に飛び、ついに身柄を確保した。
続いて、村人達は代官所に押しかけた。代官は、木津の河原で素早く処刑し、この一件を処理する予定であった。
「岡田を解き放て」凛とした威厳に満ちた声で栗田文左衛門は代官に言い放った。栗田の後には大勢の村人が続いている。
恐怖を感じた代官は、我が身かわいさに代官としての職責、つまり自断権を放棄してしまったのだ。
いよいよ新たなる風は形となった。
※この物語はフィクションです。
■著者プロフィール■
地上 亮(じがみ あきら)
昭和27年生まれ
綴喜郡井手町在住
京都府立鳥羽高等学校教諭。著書に「日本水滸伝」があるほか、「椿説弓張月」「日本水滸伝・」「アライブ」などの作品をホームページで発表している。
■バックナンバー
■バックナンバー■
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【再光の大地】
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D三番星 苦悩と楽土に直面す
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C教育は天王畑の神主から
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@県祭りと山城国一揆
【南山城文学散歩】
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J上田三四二と青谷
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H青谷梅林の歴史と詩歌
B古典文学の宝庫井手(2)
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A古典文学の宝庫井手(1)
F現代の桃源郷 南山城村
@木津川と泉橋
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D小野小町伝説と井手
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C富本銭と和同開珎
Gほとけになった悪次郎
B恋志谷神社と恋路橋
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@平野の勧心猿楽
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