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花、発見
 イネの分げつも進み、草丈も50センチを超えました。暑気を含んだそよ風が、なだらかな棚田を舐めるように青々と育つ葉身を倒し、うねるように緑の波を送っていきます。そのたおやかな光景とは裏腹にイネの根は過酷な試練に耐えています。水温が上昇し、地下部の泥に潜む嫌気性細菌が盛んに硫化水素を放出するので、勢いよく伸びてきた根も、この「どぶの臭い」のするガスに傷つけられ、根腐れをおこし始めます。この時期に中干しをします。水を落とし、田の泥に充分酸素を触れさせ、嫌気性の細菌による「どぶ臭いガス」の発生を抑えるわけです。水を順繰りに落としていき、棚田の一番高いところにある溜池の水面に目をやった時です。水面を覆う緑褐色の浮葉の所々に、スミレの花を一回り二回り大きくしたような黄色い花が、おとなしく咲いていました。タヌキモです。
 
紹 介
 タヌキモ科に属し、水中に浮遊する方をタヌキモ、湿地に生える方をミミカキグサと呼び区別しています。水に浮くフサフサがタヌキの尻尾に似ているところからタヌキモと名付けられたそうですが、細かく枝分かれした水中に浮かぶ根の至るところに小さな「捕虫袋」を付けています。この袋の左右に「いすの背もたれ」のようなものがあり、ミジンコなどのような水中小動物が休憩をしようとこの「いすの背もたれ」に触れた瞬間、袋の扉が開き、袋の中に吸い込まれる仕組になっています。吸い込まれるということは、水中より袋の中の圧力が低い構造であると予測されますが、負圧状態になる理由はわかりません。とりあえずこのような巧妙な仕掛けにより、ミジンコなどは袋の中に取り込まれ、プロテアーゼ等の消化酵素で溶かされ、分解され、タヌキモの栄養分となります。湿地に生える「ホザキノミミカキグサ(穂咲きの耳掻き草)」も、泥の中を這う根に捕虫袋を付けます。20センチの花茎に5〜10個紫色の花を連続して付けた、その名のとおり耳掻きのような花茎を、地上部の小葉から直立させます。
 
環 境
 水質階級はTがきれい、Uがやや汚い、Vが汚い、Wが大変汚いと示されます。タヌキモの咲くこの湧水池の水質階級はTです。透き通った透明度の高い水をきれいと思いがちですが、化学的に見て、栄養分が少ない貧栄養状態の水を「きれい」ととらえます。水質階級Tのきれいな池でしか生息できないタヌキモは、京都府のレッドデータブックによると「絶滅寸前種」に分類されています。以前は山城地域の溜め池で見ることができたという話はよく耳にしましたが、今はさっぱり。きっと水質階級Uに近づいた当たりでタヌキモは姿を消していったものと思われます。また、ホザキノミミカキグサも、鍬で田を耕していた時代、初夏に畦ぎわでスミレのような紫の小花を咲かせていたのですが、耕耘機やトラクターが入り、田の周辺整備が進むと、見事に消えてしまいました。
 
今後のつきあい
 「清き水 山河麗し ホタル舞う」と詠まれた俳句のように、きれいな川を呼び戻そうと、昨今、地域でホタル回帰の取り組みが盛んです。ホタルの幼虫の餌はカワニナという巻き貝で、水質階級Uのやや汚い水環境で生活をします。私たちが「きれい」と呼ぶ水はあくまでも感覚的なもので、タヌキモが生育する水環境でホタルの舞いを見ることはできません。「きれいな水」に加えて「やや汚い水」の範囲の中で、ヒトが環境バランスを維持し続けてきました。タヌキモの生活を保障するためには、「ヒト」という条件を排除しなければならないという大変むずかしい課題にぶち当たってしまいます。


 

■バックナンバー
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