花、発見
土が良いと、作物がよく育ち、病気に強くなります。良い土とは、触れるとフワフワ感があり、顕微鏡で見ると、土の粒子どうしが接着剤のようなものでくっつき合って、つながっています。これを団粒構造とよびます。1ミリ大の米粒を2個つなげて足を6本生やした姿で、一握りの土の中に100匹は住んでいるといわれるトビムシが、この接着剤を作り出します。林の床に溜まった落ち葉が大好物で、排泄する糞粒が、土の粒子をくっつけながら、土の中の微生物の餌となり、微生物の繁殖によって有機物の分解が進み、肥えた土に変わります。こんな土作りの働きをするトビムシは、余りにも小さく、農業をする人々にもあまり知られていない控え目な節足動物です。また、乾燥が大嫌いなので、土が乾燥する夏場は活動を止め、冬眠とは全く逆の「夏眠」をする珍しい動物です。梅もほころび始めた晩冬、寒々とした裏山の軟らかな土の上を歩いていた時、足元に黄緑色の群生がマット状に広がっていました。ネコノメソウです。
紹 介
ユキノシタ科に属し、湿った山地に生える多年草です。花弁は作らず、4枚のがくと4本のおしべからなる直径3ミリ程度の花を作り、その付近の葉の色が、外側の緑色に比べて淡い黄緑色をしているので目につきます。黒い実を付け、それが開いた様子が猫の目のように見えるのでこの名がついたといわれますが、花が咲いている時、木陰の薄暗いところでの黄緑色の部分が猫の目のように光って見えます。由来はこちらの方に軍配を上げたい気もします。
環 境
ネコノメソウの仲間にヤマシロネコノメソウ(山城猫目草)があります。ヤマシロの名が付いているのに残念ながら山城地方には存在しません。京都では西山辺りでしか生息しておらず、4本のおしべの先が鮮やかなオレンジ色なのですぐ分かります。ユキノシタ科の絶滅危惧種の仲間として、このヤマシロネコノメソウの他に、初夏に山間で白い優雅な花をつけるギンバイソウ(銀梅草)があります。葉の先が真ん中で二つに分かれた「チョキ」の形が特徴です。もう一つ、初春の山地の湿った所に生え、飛び出した花茎がチャルメラそっくりのオオチャルメラソウ。屋台ラーメンの呼び笛を連想しますが、語源は砂糖黍を示すカラムス、これから派生してお菓子のキャラメルになり、またチャルメラがフランスで改良され管楽器オーボエが生まれました。そんな愉快な形をし、奇怪な花を咲かせるオオチャルメラソウですが、山城地方ではほとんど見かけなくなくなりました。
今後のつきあい
「ニリンソウ ネコノメソウにフサザクラ」の俳句に出会いました。冬に終わりを告げ、暖かい陽光を浴びている春の山の様子を、草木の名だけで、見事に表現しています。一本の茎から二輪ずつ花茎を出し、同じキンポウゲ科の猛毒トリカブトと葉がそっくりなので注意しなければなりませんが、春先の山地の静けさに似合うように咲くニリンソウ(二輪草)。葉が出る前に咲き、紅色の雄しべの先が房状に垂れ下がって美しい、サクラの名がついていますが、マンサクの仲間のフサザクラ(房桜)。冬の「静」から「動」へと、安定した寒暖の落差によって、植物体内のホルモンが出され、ニリンソウの白色、フサザクラの赤色、そしてネコノメソウの黄緑色と、安定した春色の変化を示してくれます。地球規模の気候変動による気温変化で、春を告げる植物たちに、ホルモンの変調が起こらないのを願って。