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花、発見
 霜柱を見かけなくなりました。地表面が氷点下になって凍ると、地中の水分が毛管現象によって地表面に引き寄せられて凍り、次々と表面の氷を押し上げます。幼少の頃、靴の厚みをはるかに超えた霜柱で、靴が埋まったのを覚えています。しかし、道路はアスファルトで舗装され、耕作地以外は砂と砂利で押し固められた風景の中で、霜柱のできる環境を奪ってきたのかも知れません。土中の水分が吸い上げられて凍る時に、含まれていた土の粒子が外へ吐き出されるので、霜柱を覆う土は細かく軟らかくなります。気温が上がり霜柱が融け出し、小さな土粒子と混ざり合った「ぬかるみ」の山道を歩いていた時、粘りとコクのある匂いが漂ってきました。雑木林の枯葉の床に、唯一、細長い葉の輪の中に黄緑色の軸があり、ホクロを持つ花がこちらを見つめていました。シュンランです。
 
紹 介
 葉は細長く根元から立ち上がり、10センチにも満たない茎の先に薄黄緑色の花がつき、外側に3弁、唇の形をした唇弁を囲むように内側に2弁を持ちます。唇弁を「口ひげ」に、内側の弁を「姉さんかぶり」にたとえて「ジジババ」とよぶ地域もあり、唇弁のあちこちに赤い斑紋が入っていることから山城地方では昔から「ホクロ」とよんできました。日本に自生しているシュンランはほとんど匂わないといわれていますが、独特の粘りとコクのある匂いが春の山全体に漂い始めると、花を付け始めるシュンランに出会います。これが、ジンチョウゲ(沈丁花)の香りと同じく、早春を告げ、冬から春へと脱皮をはかる、ヒトにおいては再び活動期を呼び起こすホルモンの分泌を促すのではないかと思われるくらいの、強い匂いの刺激を与えてくれます。対馬に自生するシュンランは高貴な匂いがするらしく、朝鮮や中国に自生するシュンランも同様の芳香で、「東洋蘭」とよばれる栽培種として日本の園芸店でよく見かけます。
 
環 境
 シュンランは、スギ林やヒノキ林のように林床に光が届かない所には自生できません。日当たりが良く乾燥し、広葉樹の多い痩せ地を好みます。環境保全として叫ばれている「里山」とは、まさにこのような雑木林のことをいいます。高い層にはコナラ、中間層にはリョウブ・ソヨゴ・ネジキ・ヒサカキ、低い層にはミツバツツジ・モチツツジ、これが典型的な山城地方の里山の構造です。この中で昔から生活をしてきたシュンランが徐々に減りつつあります。園芸愛好家の宝物サギソウ(鷺草)や、がっしりした熊谷直実の面影を残すクマガイソウは絶滅寸前種となり、山間の谷筋に生育し愛好家の垂涎の的エビネ(海老根)や、華麗に黄花をつけるキンラン(金蘭)や、可憐な白花をつけるギンラン(銀蘭)は絶滅危惧種となり、滅多に山城地方で出会えなくなりました。
 
今後のつきあい
 「春蘭の 風をいとひて ひらきけり」安住敦氏が詠んだ俳句ですが、冷たい空気の上に、そっと暖かい春の風が包み込む春山で、健気に花弁を膨らませるシュンランをうまく登場させました。春の息吹きの里山には、以前は、融ける機会を失った雪片が林床に残っていたものですが、温暖化のせいか、今は見ることもありません。気候変動による植生の変化のほかに、山林の耕地化、植林、土砂採取などによって、山城のシュンランは、年々減ってきています。それ以上に、自生ランの多くは、その華麗さと希少価値から、心無き者による盗掘によって絶滅の危機に瀕しています。匂いが貧しくて最後まで取り残されたシュンランにまで、商業主義に走る物欲の心が忍び寄ってきているのです。


 

■バックナンバー
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