立春が過ぎると、三寒四温で春が近づいてくるけど、それでも東大寺二月堂の「お水取り」が済まんことには、ほんまの春はやって来んわなぁ。
ところでお水取りの松明の芯に使う真竹やけど、あれはな、昔から山城一帯の村々で寄進してたのや。真竹を寄進したい人が「二月堂さま」と書いた札を付け、奈良に通じる街道筋まで出しておくんや。
気づいた村人や、通りすがりの旅人が、真竹をありがたく拝んでから皆で力を合わせて少しずつ運ぶんや。太くて長い真竹をな。そうして何人もの人達がリレーして「お水取り」の行に間に合うように、二月堂へ届けられたそうや。お参りに行けない人が、賽銭を入
れられるように切り込みを入れた
賽銭竹もあるんや。賽銭を入れよ
うとしたけど、入り口までぎっち
り詰まってたので、次の賽銭竹が来るまで街道で待ってた、という信心深い人もたくさんいやはったのやて。
二月堂の護符は、ものすごうご利益があって、多くの人々の信仰を集めている。でもこの護符は、真竹一本の寄進につき、一枚と決まっていて誰でも、いつでも頂けるものではないんや。この近辺にはないという、貴重な牛玉を溶け込ました墨を用いて、お篭りの僧が梵字に刷り込んで作ってくれはるのやからな。
ありがたい護符なんや。
昔の話やけど、二月堂の護符をあやまって、肥え溜めに落とした男があってな、その男は体の具合が悪うなったのやて。肥え溜めから護符を拾い上げて、綺麗にしてから体につけてみると、すうっと元気になったそうや。
この送り竹、いろいろな事情で長いこと途絶えていたのやけど、今から三〇年くらい前に復活したのや。
「二月堂山城松明講講社」の人々の手で、二月堂へ届けられる。
毎年二月十一日早朝、田辺の観音寺さん近くの竹藪から、一番立派な真竹を根っこごと掘り起こして、普賢寺さんで「送り竹の安全祈願」のご祈祷をしてもらうんや。
そして奈良の黒髪山まで運ばれた重い根付きの真竹は、二月堂さんまで三キロ程の道のりを、揃いのハッピ姿も勇ましい男衆六、七人が交代しながら担いで行くのや。