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観音寺本堂外縁のマナイタ叩き
(写真提供・南山城村村史編さん室)
【各地域の個性がみえる資料編】
南山城村では、水本邦彦先生をはじめとした研究者の方々と、村内のみなさま方の協力によって、村史の編さん事業が進められた。この地は大和、近江、伊賀との国境(ざかい)の地なので、歴史や信仰、民俗が豊かに伝えられてきた。史料編の発刊にあたり、古文書をはじめ、信仰や民俗行事などを、江戸時代から明治はじめの村を基盤として構成された。
人びとの暮らしの歴史は、地域ごとの個性があり、伝承されてきた民俗などにも、多様な様子がみられることを考慮されたのである。
今日に伝えられ、今も生きている信仰や行事を、ほんの数例だがみてみよう。
【子供も参列する年頭の法会】
中世からの宮座である田山の宮本座と中間座(ちゅうげんざ)のオトナ衆による年頭の行事は、1月6日の「オコナイ」である。これは、大寺院で行なわれる年頭の法会(ほうえ)が、村の豊作祈願として位置づいたのだろう。諏訪神社近くの観音寺でずっと続けられてきた。
60aほどのヤマハゼの木で作った牛玉(ごおう)札をはさむ杖(つえ)を160本あまりと、寺の住職が半紙に墨書した2種類の牛玉札がまず用意される。戸数を考えて各80枚作られる。1つは「大日如来 牛玉宝印(ほういん)」、もう1つは「観世音牛玉宝印」である。これは真言宗の教主大日如来と観音寺本尊にちなんでいる厄難除(やくなんよ)けの護符(まもりふだ)である。
当日は、両座の一老が、嘉吉3(1443)年に作られた宝珠の形を彫った印に朱肉を付けて牛玉札に押す。オトナが杖にはさみこみ、ゴオウサンが完成する。これを本堂の入り口の柱に飾り、本尊の前に供える。僧のうしろにマナイタとヤマハゼの木が置かれ、読経の途中で2人の一老によってマナイタ叩きと「乱声」という発声があって、本堂外縁に据えられたマナイタを子供達が乱打する。音をたてて魔をはらい、法会をもりあげることなのだろう。
法会のあと、儀式や会食があって、2本のゴオウサンと餅1個を土産に家に帰る。「観世音」は、味噌部屋の瓶(かめ)の蓋の上に、「大日如来」は苗代田で種を蒔く時に水口に挿した。虫除けになるといわれている。
北大河原の春光寺でも、同じ日にオコナイといわれている「乱杖会(らんじょうえ)」がある。檀家総代がハゼの木で杖をつくり、住職が「牛玉宝命 春光寺」と書いて押印した半紙を木の先にはさんでゴオウサンが出来上がる。本堂での法要で、住職が読経途中に「ランジョウ」と唱えると、これに応じて男の子供達が手に青竹を持って、本堂縁側を「ランジョウ ランジョウ」と叫びながら激しく叩く。ゴオウサンは檀家に分けられ、味噌部屋に置いたり、苗代田の水口に立てる。子供達もお供えのお下がりをもらって帰る。
【子供が務める山の神祭り】
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春光寺の「乱杖会」に参列している子供達
(写真提供・南山城村村史編さん室)
南大河原では、10歳から16歳の男子の子供による山の神祭りが伝えられている。子供の年令ややり方は昔とは少し変化しているが、12月10日に各家から1升ずつの米を集め、山の神に供え、各家へ配るゴク(御供)を炊いて、4ヵ所の山の神の祭場へ供えて祈る。一同で食事をした後、各家の玄関口で、「山守りや」と叫び、ゴクを渡す。
「ヤマモリ」が終わると、翌日から炭や割木、柴用の木切りを始める。
南山城村では、それぞれの地域に、祈りと結びついた暮らしのなかの行事が、今も豊かに続けられている。子供達も祈りの世界を体験しながら大人になっていく。南山城の各地でも、こうした祈りと暮らしの結びつきが、たくさんあるのだろう。
※
南山城村村史史料編、府立山城郷土資料館「祈りとくらし」を参考にし、村史編さん室の前野雅彦さんのご協力をいただきました。
■著者プロフィール■
昭和7年生まれ
38年間、山城地域の小・中学校に勤め、現在、城南郷土史研究会 代表。
山背古道探検隊長。
「木津町史」、「山城町史」などの町村史と「京都府の地名」(平凡社)、「山城国一揆」(東大出版会)、「けいはんな風土記」(同朋社)などの編集や執筆に加わってきた。
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