ここは、宇治平等院鳳凰堂の中。瞳を開けて阿弥陀様がじっと話に聞き入っておられる。黒光りする室内の板はさすがに歴史の重みを醸し出している。蝋燭の灯りは揺れたが、人々の熱気はそれ以上であった。
「われらは守護や代官達寄生虫どもに足蹴ざまな虐待を受けてきた。われわれが人らしく生きるためには彼らを完全に駆逐し、我らの国を造りあげようではないか」と、草内の神部が切り出す。
「このままでは地獄じゃ」
「それはわかる。だが、…」と、躊躇するものも当然いる。
「おぬしは去れ」と仲間内でも喧嘩騒ぎになりかけたが、六女郎花の気迫が彼らを抑えた。
「むむ…」と、沈黙する。・・・・・・
「けんか腰ではさきには進まん。ここらで皆の意見を集約しようではないか」と、島元の伸介が口を挟む。
さらに、伸介は続ける。
「どうじゃ、この際思い切って我らが我らのための国を造ろうではないか。大名などの干渉を受けないわれわれの国じゃ」本人は茶目っ気たっぷりである。と、
「賛成、賛成」皆割れんばかりの拍手とともに、大歓声がおこった。
(うそだろう)と、内心ではとまどったが、
「ええいっ、酒じゃ酒じゃ。固めの杯よ」と勢い口走ってしまった。酒が振る舞われ、平家の落人部落からの差し入れも届いた。真剣な話しは途切れることなく益々篤くなる。
「国を造るのには約束事が必要だ。わしは唯の馬借だから難しいことは解らん。じゃが、最も戦好きの畠山勢とその一味は絶対近寄らさぬ事が大切じゃ」
「いや。奈良の古市や、越智勢、さらには筒井も、十市も追い出したいものよ」
「幕府の細川に取り入り奈良の旧荘園領主に、この地を返させることにする」
「それでは元の木阿弥ではないか」
「いいや。奈良の坊主達は喜ぶだろうが、南都の言い分は無視を決め込む」
「無視をしながら、木津の地に本拠を構え、市坂を固めるが大切」
「北は巨椋池の南に柵を設け、高見台を置く。そしてこの平等院あたりを前線の砦にすればよかろう」
「南北同時に攻撃されぬように心がけることが肝要だな」
「双方の連絡は狼煙で取り合えばよいではないか」
「中にて産業を興し米を蓄える。それらは我ら草内衆が受け持つわ」
いよいよ、新たなる国の骨格が見えてきた。
※この物語はフィクションです |