花、発見
「昨年(平成19年)7月、国交省から請け負った業者が誤って全部刈り取り焼却され、生育が心配されたが、紫のかれんな花が初夏の風にそよぐ姿に関係者は胸をなで下ろしている」という記事が平成20年5月16日の京都新聞に掲載されました。レンリソウです。
紹 介
マメ科の仲間で、草丈50〜80センチ、断面が三角形の茎を持ちます。一見、カラスノエンドウかと見過ごしてしまうのですが、よくよく見ると、鮮やかな青紫の花を付けたスイートピーとでも呼べるような姿で、やせ地に生えます。
「比翼連理」という言葉があります。二つの羽が一体となって空を飛び、二つの枝が一体となって木目をつけるという「分かれていても一つになる」ということを表す言葉です。主茎からでる小葉がきれいな対生を示し、二つの枝が一体となって見えるので連理(レンリ)の名がついたようです。また、主茎の両側に狭い翼のような突起を持ち、これが手伝って茎が平べったく見えるのですが、この2枚の翼を「比翼」に見立てて、「連理」の名がついたとも言われています。
1964年に亀岡市で採取されたのを最後に山城地方では絶滅したと考えられていたレンリソウが、草刈り報道を契機として、生き残りが確認されたということになります。
環 境
山城地方に水の恵みを与えてくれる木津川の堤防には、平坦の野草地とは比べものにならないほど多くの種類の植物が生育しています。土地にヒトの手が入ると、土の富栄養化が起こり繁殖力の高い植物がはびこり、草丈の低い仲間の成長を抑え込んでしまうため、植物の種類が急激に減り、植生の単純化が起こります。ところが山城地域を流れる木津川の堤防は昔から草刈りが定期的に行われ、多くの種類の植物の生育環境を守ってきた歴史があります。
8月も終わりのころ、木津川市山城町付近、木津川の堤防が一面ピンクの花で覆われます。ツルボ(蔓穂)です。ユリ科の仲間で、昔は、飢饉で食べるものが無くなった時、このツルボの球根を砕き、晒して粉にして、「ツルボ餅」で飢えをしのいだ記録も他地域で残っています。救荒植物としてやせ地でも生育できる、今ではあまり目にかかれない植物です。
同じころ、木津川堤防に生えるヨモギ群落から、ヌーボーと茶色の毛で覆われた房が顔を出します。タヌキマメです。毛むくじゃらの頭から可愛い紫の花をのぞかせる風情は笑いを誘います。これもやせ地でしか生育できない絶滅危惧植物です。
今後のつきあい
「在天願作比翼鳥、在地願為連理枝」、玄宗皇帝と楊貴妃の仲睦まじさを歌った、白居易の長恨歌です。今、庭では、越冬をする宿根スイートピーが淡桃色の可愛い花をつけています。茎が平べったく、小葉がきれいに整って、このスイートピーも連理の枝を連想させます。この容姿から、レンリソウも越冬する宿根であると予想されます。土手面で刈り取られても翌年開花したという新聞記事からも、宿根性のマメ科植物であることは間違いないでしょう。木津川堤防の草刈りを定期的に行うことで、土手野焼きは避けなければなりませんが、河川堤の景観を保ち、多くの植物の種類を維持することができます。これが絶滅を救う唯一のヒトの所業だと信じます。耕作地に光を入れ、雑草から守る敷草を作るのがこの下草刈りの役割、河川堤だけでなく、田畑山際においても下草刈りは農作業の基本となる大事な仕事です。これを怠ったために、皆に愛される初夏の女王ササユリも、夏の小悪魔ママコナも絶滅の危機に瀕しているのです。