花、発見
お盆も過ぎると風が急に涼しくなり、イネの花も咲き終わり、緑の籾殻にデンプンが溜まり始めます。乳熟期と呼ばれる頃です。私たちは米粒の胚乳の部分を食べます。胚乳とはよく言ったもので、「胚」(ヒトでは胎児に相当)に与える乳であり、次第に糊状になり、水分が少なくなって固くなり、米粒の体を成します。カメムシたちはこの乳を吸いに水田に群がります。「ぼちぼちカメムシの消毒でも」と田面の緑の穂の絨毯の切れ目に目をやると、山際の畦畔で派手な青紫色の花が咲いていました。キキョウです。
紹 介
キキョウ科に属し、草丈は1メートル程度。つぼみは花弁どうしが袋状にくっつき、風船のような形状であることから、バルーンフラワーと英名がつけられています。このつぼみが徐々に緑色から青紫色に変化し、夏から初秋にかけて、星形の花を咲かせます。根は太く地中深く伸び、サポニンが多く含まれ、去痰や鎮咳に効用のある漢方薬として利用されています。この根を茹でてさらし、イヌリンを主成分とする食材として、キムチやビビンバにも利用されます。韓国ではトラジと呼ばれています。
環 境
中国、朝鮮及び日本で古くから生育していることから、成長期から開花期にかけて、高い気温と湿気を好むものと思われます。日光に当たらないと発芽しない性質をもち、この手の植物たちは発芽以後の生育にも充分な光を必要とします。春先の生育期の日照が生育に影響を与え、キキョウの親戚のリンドウも同様の特性を示します。竜胆「リンドウ」の文字が示すように、この根っ子をだれが舐めたかは知りませんが、竜のキモのように苦いということから名付けられようです。このきれいな青紫の花をつけるリンドウが、なぜ、秋の七草の仲間に入れてもらえなかったのか。多分、山の紅葉の時期に咲き始め、霜の降りる晩秋まで花をつけているので、初秋の頃に一番きれいな七草の仲間からはずされたのかも知れません。しかし、キキョウもリンドウも山城地方では絶滅危惧種の仲間です。山野畦畔沿いの草刈りが定期的に行われないと、背の低い時期に、成長の速い植物が覆い被さるので日照不足となり生育障害が起こります。この繰り返しでキキョウもリンドウも絶滅に追いやられたのでしょう。
今後のつきあい
「朝顔は 朝露負いて 咲くといえど 夕影にこそ 咲きまさりけり」と万葉集に詠まれています。朝顔は朝露をつけて咲くそうだが、淡い光の夕方にこそ、見事に咲いているのを知る花である。とすると、今、私たちが知るアサガオではないことになります。アサガオは平安時代に中国から渡来したものだとする記録から、万葉集の朝顔は木槿「ムクゲ」か桔梗「キキョウ」か。今ではキキョウ説が有力で、「萩の花 雄花葛花 撫子の花 女郎花 また藤袴 朝顔の花」万葉集に詠まれた山上憶良の七草の朝顔も、キキョウと解されています。以前は日本各地で、秋の代表植物として愛でられたキキョウが山野から後退してきたのは、山野の手入れを怠ってきたからでしょう。人里離れた奥深い山野で見つけることはなく、ヒトが生活をする山際の畦畔沿いに花をつけて秋を知らせてくれたのがキキョウです。山野の下草刈りをすることで、キキョウの幼生期に充分な光が与えられます。庭に園芸種としてキキョウの花を咲かせて、「絶滅保護」と勘違いをしている人が、もしいるのなら、その虚構を恥じなければなりません。