多賀(たが)の鎮守の森には、高(たか)神社という古くからのお宮さんがあって、秋になるとお稚児さんや、お神輿(みこし)巡行といった楽しい行事がありますのや。昔は青谷川あたりまで、賑(にぎ)やかな市もたちましてん。
こんなお祭りのほかにも、村の人は昔から悲しいとき嬉(うれ)しいとき、なにかにつけ、このお宮さんにお参りしてきたもんですわ。
日露戦争のときは、村からようけ出征しはりましてなぁ、
「戦死しませんように」
「どうか、弾が当たりませんように」
と、夫や息子の無事を祈って、女の人らがお百度参りを、ものすごうしはったそうです。
割り竹を百本持ちましてな、舞殿を一回まわっては、お宮さんの前の箱にちょいと一本いれ、また、お宮さんの前の箱にちょいと一本いれる。竹がなくなるまでやるんですわ。百篇まわらな、効力がないと思いこんではるさかい、舞殿のまわりを、ようまわらはったそうです。
村の真蔵院さんでは、お坊さんが水行をやってはって、お宮さんとお寺さんと、両方お参りして、息子さんが無事帰ってきたお家も、ありましてんて。
ところで、このお宮さんには、狛犬(こまいぬ)が六体いはりますねん。参道の鳥居の手前にまず一対。なだらかな坂をのぼる途中に一対。そして、石段をのぼりきったところに一対ですわ。
狛犬をなでた手で、自分の痛いところをさすると、痛みがやわらぐいうてね、お年寄りがよう、なでてはりますわ。
そうそう、ここの狛犬の足には、どれにも糸が結んでありますねん。
毎月、お一日(ついたち)に、狛犬の足に糸を結ぶと風邪ひかんとか、足が良くなるとかいうてね、結ばはりますのや。
けど、もっと切実な願いをこめて、結ばれた糸もあります。
それは、家出をした人が遠いとこに行かんようにとつけた、足かせの糸ですわ。出ていかはった人をなんとか自分のもとにつなぎとめておきたい一心の、想いの糸ですやろなぁ。
待ち人が無事帰ってきたら、糸を切りますねん。
だれが始めたんですやろなぁ。昔から、こんな切ないお参りもありますのや。