昔、当尾では、お正月が近うなってくると、「お正月様迎えにいてこう」言うて、十二月二十五日にお正月用の松を切りに自分の山に入るのや。たいていは一家の主人か、じいさんの仕事納めやなぁ。
松は根ェぐちのままで、雌松(めんまつ)と雄松(おんまつ)の両方を引き抜いてきて、門口の左側に雌松を、右側には雄松を立ててな。竹やぶから切り出してきた竹をスパッっと斜め切りに先を尖(とが)らせて、大、中、小と松の下に立てるのや。そして梅の古木を添え松竹梅にして、しめ縄をはったら、立派な門松の出来上がりや。「お正月の飾り付けをちゃんとせんと福の神さん来てくれやらへんで」と言うてな。
門松は福の神さんに来てもらうための目印やな。カドだけではなしに、どの出入り口にも、それぞれ小さなものをつけたわ。
お正月飾りには、こんないわれがあるのやで。
しめ縄は、いつもの縄ないとはちごて、左ないとか三本ないにする。これは平生しないことをして心を新たにするというわけや。
しめ縄につける橙(だいだい)は、代々栄えるようにとの祈りを込めているのや。
ゆずり葉は、順序をまちがえんと世代交代出来ますように…。
ウラジロは表と裏、すなわち善悪をはっきりさせるほうがええということやなぁ。
門松を門口に飾れるのんは、おかげさんで不幸ごとがなかったということや。神棚やお仏壇も念入りに掃除して、先祖さんが喜んでくれはるように花も水も新しゅうしてな。
一年間、世話になったヘッツイさんや、泥んこの芋や大根を洗ってきた流し、雨風をしのいでくれた雨戸や、厠の神さんにも感謝して、来年も「よろしゅうに頼みます」と、心を込めて掃除と飾り付けをするのや。
門松を手伝って来てくれた男の福の神さんと女の福の神さんが、これらの飾り付けを見て相談なさるのや。「ふん、ふん、なるほど。この家の者は、目配り、心配りが出来ているやないか。感心なやっちゃ」と、その家に合った福を置いていってくださるということや。