昔、小倉池に小さな島があった。島の真ん中にある古い松の木の太い幹には、ほこらがあって、竜神様が大切に祀られておったんや。
島の対岸の村に、おじいさんと孫娘が二人で暮らしておった。ある日のこと、突然おじいさんが倒れて、寝たきりになってしもたんや。村のお医者さんも首をひねるばかりでな。
そこで娘は、おじいさんが一日も早く元気になるように、島の竜神さんに百日の願かけをしたんや。娘は雨や風で激しく波立つ日も舟を出して、島へ出掛けていった。
そして、満願の朝。いつものように竜神様の前で手を合わせ、一心に祈っていると、いつの間にか見たこともない、りりしい若者が立っておった。若者は「これをおじいさんに飲ませなさい。必ずよくなるよ」と娘の手に竹筒を握らせると、松の木の後ろへ消えていった。
若者のくれた薬を、毎日のませたおかげで、おじいさんは、日に日に元気になっていった。
そしていつしか二人は、愛し合うようになったんや。二人が一緒になりたいというと、おじいさんは「本当にそれでいいのか」と念をおしてから、気づかわしげにうなづいた。
結婚式の日、娘は母の形見の衣裳に身をつつみ、島に渡って若者をまっていたが、どうしたわけか昼近くなっても、若者は姿をみせなかった。
その日、村の衆は、小倉池が田んぼになると決まったので、じゃまになる島の木を切ろうとしていた。おじいさんと娘は必死で止めたが、村の衆は決まったことやと強く言った。木を切る前に大切な竜神様を氏神様にお移ししょうと村の衆が竜神様のほこらに手をかけた。すると辺りが急に暗くなりゴロゴロと雷がなりだし、松の木のてっぺんに稲妻が走り、木は真っ二つにさけて倒れた。と同時に、島の周りで水面が盛り上がったかと思うと、突然池の水が吹き上がった。水は風をまきこんで、竜巻となり、中から大きな竜がおどり出て、高く高くのぼっていった。
やがて、辺りは嘘のように明るくなった。驚いている村人にまじって、娘は、ただぼうぜんと空を見上げていたんや。すると、フアーッと一陣の風が吹いて、娘の打ち掛けを、空に舞い上がらせた。折しも顔を出した日の光に、純白の花嫁衣裳がキラキラと照り輝き、竜巻に包まれていったんやと。