毎年のことやけど、暮も押し迫って来ると、気ぜわしうなってきますな。
大晦日には、水や火や自然の恵みに感謝し、一年の無事のお礼と家族みんなが来る年も無事に過ごせるようにと、新年を迎える準備をしますのやな。
朝早くから、家の内外の大掃除を家族みんなですませると、家の当主は門に注連縄(しめなわ)を張り、今では松を守るために、門松は立てんと門の左右に、盛り土だけしておきます。
倉の入り口の注連縄は、ほかのと違い、めがね型の輪に細いまるい炭をはさみこんで縄をなって、ウラジロとゆすり葉と橙で飾りますのや。
床の間には、宝来さんと鶴の掛け軸、皇大神宮と八幡さんの掛け軸をかけます。
当主は恵方を向いて、お三宝に紙をしき、米一升を盛り、両脇にウラジロをさして、葉が十二枚ついたゆずり葉を真ん中に立てます。
その下に橙一個、周りには、葉付きみかんとコロ柿は十二個ずつ、白い昆布一枚と、ごまめ、数の子、棒だらは半紙に包んで、カヤの実、勝ち栗、小さいわらの米俵をのせて、最後に「三宝様」と書いたお箸を添えて、床の間にお供えします。
床の間には、大きなお鏡も供えますけど、二つ重ねの小さいお鏡を十二個、お盆にならべ、「正月の神さん」にお供えしますのや。それを「十二月(じゆうにつき)さん」と言いますのや。
「十二月さん」と神棚の「家の神さん」十二と合わせて二十四の瓦けに、生のままの餅、芋、大根、人参をさいの目に切った生御飯と言う物をお供えします。生御飯をつくるのは女の役目で、年が明けるのを待ってお供えしますのや。
午前零時、年が明けますと、当主は、まず若水桶に餅二個を入れて、注連縄をつけた井戸から若水を汲み、それで顔を洗い手を清めます。
次に、四方を拝み、おくどさんで湯気を立てて煮えるお雑煮に、若水を加えて黒豆の鞘(さや)を燃やしてぱちぱちと音を立てて炊きあげます。
このごろは、よそさんでは簡単にしてはりますけど、私の家では、今も、昔のとおりにしてお正月を迎えますのや。おかげさんでみんな元気にさせてもろてます。
お雑煮が炊き上がるころには、家族みんながそろい、「明けましておめでとうございます」と、にぎやかに祝いの膳をかこみますのや。
(精華町)/ 宇治民話の会)